POLY-HOUSE POLY-HOUSE

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POLY-HOUSE

・東京に建つ築45年の住宅のリノベーション

・ひとつの「住宅」を設計するのではなく、家族の活動の拠り所となる「小さな建築=居住装置」をいくつも埋め込んでいく

・住宅全体に光と風が抜けるように、開口を設計していく

・「小さな建築=居住装置」が家族と家族、家族とゲスト、ゲストとゲストをつなぐプログラムになる

・一家族一住宅ではない、これからの新しい住宅像の試み

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「1住宅=1家族=1ライフスタイル」モデルを超えて - 「多数性」を基点とした住宅

破綻した標準設計住宅のリノベーション

案内されたのは、都心にある築45年の住宅だった。かなりの増改築を経ていたものの、原型は、核家族のための標準設計プランをしていた。南側に庭をつくり、庭に面する1階中央にLDK、居室も庭に面しており、水回りは北側に集約されていた。
建主の思い入れが深いと言うだけあって、随所に手が入っていた。庭には煉瓦が敷き詰められ、夏の強い日差しを避けるため2本の木が植えられた。家族の成長に合わせベランダはサンルームとして改造し、子供の要望で地下室や納戸も増築。標準設計を土台に魅力的な住環境をつくり上げていった工夫、そんな<生きられ た家>の物語は、たったひとつの出来事で台無しになってしまう。隣地に、高さ制限一杯の中層の住宅が建ってしまったのだ。しかも南側境界ギリギリに寄っていたから、ほとんどの居室は一年中影で覆われ、風通しもすっかり悪くなってしまった。そもそも戦後復興期の標準設計である。1階床下に捨てコンクリートも 打っていないし、外壁には断熱もないという最低限の仕様だったため、庭からの快適な外部環境の入力を失ったことで、プログラム、性能、空間、いずれの観点でも住宅として破綻してしまった。

核家族から5人の大人のための家へ

建主の願いは、新築ではなくリノベーションによって、この住宅をどうにか再生したい、<生きられた家>の物語の続きをつくることだった。施主は60代の夫婦に子供ふたり、親から共に家を引き継いだ親戚ひとりの計5人の大人が住むという少し変わった構成である。基本的には夫婦と子供ひとりが住むが、海外で生活するもうひとりの子供の帰国時の拠点として、また親戚が時々ライブラリーカフェとして使うかもしれない。また三世帯居住もありうる、という多様な将来像を孕んでいた。核家族のための 住宅が、45年でここまで違った使われ方に直面するのか改めて驚く。
対話を重ねてみると、夫婦もそれぞれ仕事をし、お互いに独 立した生活のリズムを持っていることが分かってきた。親戚に至っては図書室に自分の本はあれど、ここに宿泊する意思はない。この5人は、滞在時間の長短含めまったく違うライフスタイルを有していて、独自のタイムラインでこの住宅に滞在するのだ。それはつまり、5人の生活領域<パーソナルテリトリー>を独立 して存在させ、時々重なりながら同居する、「1住宅=5人=5つのライフスタイル」という多数性を基点とした新しい住宅像が求められたのである。

<第二の外部>がつくる関係性の豊富さ

ひとりひとりのパーソナルテリトリーをデザインしていく上で、まずはこの住宅から奪われた外部環境を再生する必要があった。人の生活領域は、外部環境との距離の取り方に個人差が顕著に現れてくる。南側が影で覆われたこの住宅の内部に光と風を再び取り込むためには、上空に向かって大きく開くより方法がなかっ た。具体的には、屋上に通風・採光のために環境装置としての三角形の棟屋を建て、季節ごとの入射角と気流のスタディを経て、住宅の中心に流れを生み出すもっとも効果的な穴を空けた。住宅の真ん中に平面的にも断面的にも大きなガランドウの共有領域をつくるアイデアである。
「ホール」と名付けたこの場所は、光や風を取り込むだけでなく、断熱や防水やブラインドによって快適性の質が一段階コントロールされた<第二の外部>、内部と外部の中間領域 である。この<第二の外部>に対する5人それぞれの身体的・心理的な距離を対話の中で探りながら、生活領域の拠り所を決めていった。たとえば四周から光が入ってくる明るい場所、庭と「ホール」の両方を体験できる外に繋がる場所、他者からの距離を最大限確保した安心する場所、「ホール」との境界が曖昧で緩く空間が繋がる場所、地下なのに空気も光も繋がる場所というように、ガランドウの空間の中を動物のナワバリを決めるようにして、5人の場所が その輪郭を徐々に現していった。個人の領域と共有領域の繋がりは、建具の有無や視線の行き来、音の伝達などで数段階の差異をもたせている。
5 つの領域は経済性や住人の要望に配慮して無理なく決めていったが、空間の広がり・奥行感・外部環境との繋がりなど、数字に現れない空間の大きさには最大限こだわった。5つの領域それぞれが独立した外部との関係性、中間領域との関係を持つことが、多数性に基づく住宅には欠かせないと思ったからだ。入居後、 久々に訪ねてみると、ホールには5人のライフスタイルが緩やかに、自由な感じで溢れ出てきていた。どうやら新しい住宅の物語は無事にスタートできたようである。
(新建築住宅特集2014年11月号に寄稿)

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